幻聴の起源

「‥言葉の幻聴は、行動を統制する方法としての自然淘汰によって進化した言語理解の一副作用だった‥。

「ある男が、居住地を流れる川のはるか上流に、魚を捕るためのやなを仕掛けるように命じられたとする。もし男に意識がなければ、当然状況を<物語化>することも、それによってアナログの、<私>を空間化された時間の中で心に抱き、十分に結果を想像することもできない。それでは、彼はどのようにするのだろうか。言葉だけが、午後中かかるこの仕事を彼に続けさせられるのだと思う。更新世中期の人間は、自分が何をしているのか忘れてしまうだろう。だが言葉を話す人間には、思い出させてくれる言語がある。自分で言葉を反復するのかもしれないが、それには一種の意志が必要で、その時代の人間に意志があったとは思えない。となれば、「内なる」声という幻聴が、何をするのか繰り返し教えていたと考えたほうがよさそうだ。

「‥学習によって習得した行動で、しかも欲求が満たされて完結することのないものは、何か外的要因によって維持してやらねばならない。その役目を果たすのが幻聴の声だ。

「同様に、意識を持たぬ古代の人間は道具を作るとき、「より鋭く」と幻聴の声で命令されるおかげで、一人で仕事を続けることができた。あるいは、「より細かく」という意味の幻覚の言葉を聞いた人間は、種子を石臼で挽いて粉にすることができた。人類史上のまさにこの時点で、仕事をやり抜くという淘汰圧のもと、言葉を声に出す役割が脳の片側だけに委ねられ、もう一方の側がその役割から解放された。そして、人間は後者の側で幻覚を聞き、仕事をやり抜けるようになった。」(pp.165-166)

淘汰圧~出来たものだけが生き残った